九十九里の「岩佐基金」の土屋です。(これはどうぞ自由に転送して下さい。)
この10月11日に岩佐嘉寿幸さんが77歳で亡くなりました。(他の新聞を見ていま
せんが、朝日新聞10月12日朝刊の死亡欄に載りました)。
岩佐さんは1971年に日本原子力発電・敦賀発電所の原子炉格納容器内で作業した
際に被曝し、一週間後に右足に水ぶくれができ、体の具合も悪くなりました。73年に
大阪大学病院で診断を受け、検査の結果、翌年「放射性皮膚炎」との診断書が出され
ました。(診断書を書いた若手の医師は飛ばされました)。
岩佐さんは「現場で働く者が放射能を浴びるような発電はおかしい」と74年に日
本で最初に原発被爆労働の裁判を起こしました。
今でこそ、原発の危険さ、情報の独占とゴマカシの非民主性が少しずつ明らかに
なってきましたが、当時は第一次オイルショックの後で、日本中が「原発が日本のエ
ネルギー問題を救う」という風潮で、岩佐さんは「お上に逆らい、時代の進歩に反す
る者」と見られて、文字どおり「孤独な闘い」でした。
(今は原発に批判的な朝日新聞でさえ、推進側の資料のみをあげて、被曝の事実はな
いと勝手に決めつけ、「気のせいだ」という記事を書いていました。これは進歩的な
?マスコミに期待していた岩佐さんにとってすごいショックでした。)
そして、岩佐原発被爆訴訟は原子力産業側からの「科学的権威者」を使ってのウソ
・ゴマカシと、様々な妨害工作(家族への脅しを含む)の連続でした。
(裁判官の多くはどちらの内容もよく分からないと、阪大助手の科学的な事実より
も、東大教授の言い分の方を採るのです! 学校ピラミッドとはこういうことなので
す)。
結局、地裁、高裁と敗訴し、91年に最高裁で上告を棄却され、岩佐さんの裁判は終
わりましたが、岩佐さんはそれからも反原発、反戦争に積極的に関わってきました。
JCOの事故で二人が死亡し、「原発事故による最初の犠牲者」と新聞などにあり
ま
したが、急性の死亡でない原発作業員の被爆・死亡は数え切れません。体がだるく
て、やる気が起きてこない「原発ぶらぶら病」は共通の症状です。
原発は事故が起こって初めて人間に被害が及ぶのではありません。平常運転を続け
る原発であっても、労働者は多かれ少なかれ被曝しています。
原発被爆労働の問題を訴え続け、自らも原発の中に入った写真家・樋口健二さんは
言います。
「原発から生み出される被曝労働者の存在は闇に消され、社会問題にもならない。原
発で働いた下請け労働者は延べ数十万人を超え、そのうち3割以上が被曝し、
このうちガンや白血病で死んだ人は数百人を超えるだろう。」
被曝の影響でしょう、岩佐さんは網膜剥離、白内障の手術を何回も受け、また、気
管支炎や心臓もわずらいました。骨も極端にもろくなり、元々体の丈夫なのに、何度
も骨折しました。亡くなる前の岩佐さんは複数のガンにおかされていたようでした。
岩佐さんは暴力団の脅しにも屈せず筋を通したので、家族が分裂してしまいまし
た。(会社とヤクザに脅されて、示談に応じた被曝労働者は沢山いますし、本人の居
ない時に家族が脅されたり丸め込まれて示談した例も数え切れません。日本の企業は
ヤクザの使い方が本当に巧みですが、これでは総会屋にお金がかかるわけだ)。
17年間の裁判で岩佐さんは多大な時間、精神的な苦痛を被り、また、金銭的に大
変で、蓄えは全て消えました。
「筋を通した岩佐さんを精神的にも、金銭的にも、孤立させることは絶対にしては
ならない。そうなれば、岩佐さんの御苦労は水の泡にな
り、非人間的なことに異議を唱える人が次からは出て来られなくなる。」と思い、私
達は岩佐さんの御苦労に感謝の気持ちを伝えるとともに、物心ともに支えようと、地
域の仲間で「岩佐基金」を作り、たいしたことはできませんでしたが、支援して
きました。
私達が岩佐さんのことを知ったのは、フォト・ジャーナリスト樋口健二さんの写真
展と講演会でした。
多くの下請けの労働者(その多くは過疎地の農民・漁民や被差別部落の人達など)
が原子力発電所の内部で被曝している非人間的な現状...。
「暑くて苦しくてよ、マスクなんかしてられないよ」と放射能をたらふく吸い込ん
で
被曝し、働けなくなる原発労働者・・・。
法律で定められている「放射能管理手帳」は親方などが持って、作業員には渡さな
いので、実際の作業員それがあることさえ知りません。だから、補償なんて出ませ
ん。
(地裁、高裁、最高裁と岩佐さんは敗訴しましたが、最大の原因は「被曝を記録し
た
証明がなかったこと」でした。原発の中で作業させながら、会社は法律で決められた
「手帳」さえ渡さなかったのです)。
他方、原子力会社の社員は原発現地へは行きたがらず、下請けの労働者に危険な仕
事をを押しつけ、また労組も原発は「クリーン」で「安全だ」と開き直る。
原発を取りまく問題がいかに日本社会の構造的問題にあることを考えさせられまし
た。
原発内の労働は非常に危険なので、今は下請け社員も嫌がります。電力会社は日当
7万円を支払いますが、作業員(多くは日雇い)が手にするのは1万円。中間にいる
企業や手配師、親方などがピンハネするからです。ヤクザの資金源でしょう。
樋口健二さんの話によると、
日本原子力発電・敦賀原発<7万円・支払い>
--- 元請け(日立プラントな
ど)--- 孫請け(東京・西牧工業など) ---
ひ孫請け(下関・井上工業など) ----
親方、人出し業(北九州・塩見設備など)
----- 原発労働者<1万円・受け取り>
原発は近代科学技術の結晶で、あたかもコンピュータのみで動いているかのような
錯覚を私達に与えますが、コンピュータ・ルームは電力会社の社員が働く清潔で安全
な場所です。
原発は、定期点検や事故・故障の時に、原発の中でモップと雑巾で放射性物質の拭
き取り、放射能ヘドロのかい出し、ひび割れした配管の
補修などの作業を行う多くの労働者がいなければ動きません。
原発はハイテクの固まりに見えますが、モップと雑巾の仕事がなくては動きませ
ん。定期検査や事故・故障時には一基の原発で一日1000人以上の労働者が働いていま
す。
「岩佐原発訴訟」はまともな事実究明なしに最高裁でも退けられました。その過程
で、原発での労働者被曝の実態とズサンな管理が法廷で明らかになり、原発関連産業
の労働組合も、会社と被曝を減らす労使協定を結ぶようになり、また、少なからぬ
人々が原発での労働をやめて、被曝を免れています。
91年には、31才で白血病で死亡した原発労働者が初めて労災として認定され、95年
には、29才で白血病で死亡した嶋橋伸之さんと、闘病中の38才の原発労働者の労災が
認定されました。こうした認定も「岩佐原発訴訟」抜きにはありえなかったでしょ
う。
便利な電気の裏側で傷つき死んでゆく「原発被爆労働者」のことは本当に知られて
いません。まっとうな社会を望んで、困難な時代に声をあげ、事態の悪化を少しでも
防いだ岩佐さんへ感謝し、岩佐さんの志を受け継いで、少しでもまっとうな社会にし
てゆきたいと思います。
岩佐さんのご冥福をお祈りしつつ。 (2000年11月)
(なお、「岩佐嘉寿幸さんを偲ぶ会」が12月17日に大阪であります。)
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ビデオ 「隠された被曝労働」
イギリスの民間テレビ局「チャンネル4」が日本の原発被爆労働の問題を特集し、
イギリスで放映しました。番組名は‘Japan's
Nuclear Power Gypsies"(日本の原子
力ジプシー達)で、樋口健二さんが日本各地の原発被爆労働者を訪ねる30分のドキュ
メンタリーです。
英TV局の許可を取って日本語版のビデオにしました。題名は「隠された被曝労
働」
で、「岩佐基金」では1本・1500円で販売しています。
(なるべく多くの人に見てもらいたいので赤字にならない程度の価格にしました。
でも嬉しいことに、予想を上回って250本以上も売れており、利益は岩佐さんへの支
援などに回してきました)。
送料は1本270円、2本390円です。
お申し込みは下記のメールへどうぞ。
東京では新宿の「模索舎」でも売っています。
パンフレット 「えらいこっちゃ」
原発労働者の問題を追い続けるフォト・ジャーナリスト樋口健二さんの講演をパン
フレットにまとめました。話し言葉で、とても読みやすくなっています。
B5・46ページ。 一冊300円、送料190円。
490円分の切手を添えて、下記にお申し込み下さい。
(下記のメールでも結構です)
「樋口健二 写真展
事務局」 〒284
千葉県四街道市千代田1−11−11 足立方
(電話) 043−423−8381
樋口健二さんの写真展、および講演
すごく分かりやすくて、迫力満点です。樋口さんの下請け労働者への優しさと、そ
んな理不尽な社会は変えなくては、との熱い思いが伝わってきます。
ご希望の場合は、上記の「樋口健二写真展事務局」に連絡して下さい。
内容や金額、写真の配送などを説明してくれます。
(下記のメールでも結構です)
「原発いらない!ちば ネットワークニュース」
原発に関する多くのニュースや記事、講演会のお知らせなど、内容は充実していて
豊富です。再び「戦争への道」へ進まないように、との熱い思いが感じられます。
毎月1回発行で、会費は年間1500円。
郵便振替口座 00160−0−539313
串田さん (電話)0475−82−7706
(下記のメールでも結構です)
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以下は、原発被爆労働に関するお勧めの本です。読みやすいので、ぜひ読んで下さ
い。
「知られざる原発被曝労働」
(藤田祐幸著・岩波ブックレット・400円)
「これが原発だ---カメラがとらえた被爆者」
(樋口健二著・岩波ジュニア新書・600円)
< お願い >
買わなくても、ぜひ地域の図書館にリクエストして下さい。
(沢山の人が読めるように)。
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Yoshihisa Tsuchiya
greenkzk@jade.dti.ne.jp
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